“ AIでなくなる仕事“という話を耳にしたことはありますか?
この話題の発端は、イギリスのオックスフォード大学から発表された論文で
「現在の仕事の47%はAI,ロボットによる自動化で置き換わってしまう」
と推測されたことです。
インターネット記事や雑誌などでも取り上げられ、
「我々の仕事がAIによって奪われてしまうのか」
「子供たちの将来はどうなるのか」といった不安や混乱を抱える人たちも現れました。
論文の結果ばかりが独り歩きしているような状況に対して、著者らはどう感じているのでしょうか。
今回はその論文から5年がたった2018年の記事をもとに著者らの考えを読み解いてみたいと思います。
AIによってなくなる 仕事
イギリスのオックスフォード大学で人工知能(AI)などの研究を行うマイケル・A・オズボーン准教授らによる論文“THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?”が2013に発表されました。
この論文では、アメリカの労働人口の97%をカバーする702の職種について、そのうちのおよそ47%がコンピューターに取って代わられる可能性があると試算しました。
(https://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/downloads/academic/The_Future_of_Employment.pdf)
この論文の後日談ともいうべき記事がオズボーン氏らによって発表されました。
2018年4月のオピニオン記事です。(https://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/opinion/view/404)
書いてある内容をまとめると以下のようになります。
上記の論文の発表以降、多くの研究が追試で行われ、様々な試算の数字が出されました。
マンハイム大学ではたった9%の仕事しか自動化により置き換わらないだろうとされました。
OECDの研究では置き換わるのは14%、そして32%の仕事では自動化により大きな変化を受ける可能性が高いとされました。
Osborne氏らの2013年の論文で述べた内容は予言ではなく推定です。
どれくらいの職業が実際に自動化で置き換わってしまうかを推測したものではありません。
なぜならばコンピューター化の実際の程度と速度はそのほかの要因によって異なるからです。
彼らの推測はapocalypse(破滅の予言、というような意味合い)としばしば受け止められがちですがそれを意図したものではありません。
自動化の余地は大きいということを示したにすぎません。
47%という数字もとてつもなく大きいものではありません。
一方マンハイム大学やOECDの数字はとても低いように見られます。
なぜこれらの差が生まれるのでしょうか?
原因として理論的根拠や解析に使用した手法の差などの違いが挙げられます。
これらの研究結果に対し、政治に携わる人などはこれらの数字の違いの背景を理解し、我々が直面している変化に自分なりの結論を出すこと、そして適切に対応することが必要です。
(ここまで)
2013年の論文は「技術的に可能性がある」と述べたものであり「現実に、近い将来に起こるものである」と断定したものではありません。
その後の他の研究による追試の結果では「置き換わる可能性はそこまで高くない」と試算されたものもありますが「それはどうでしょう」「私たちはこのような手法を用いて推測しました」と根拠を述べており、OECDなどの追試の不十分な点を指摘しています。
ある程度の確証はある一方、可能性を指摘しただけで予言ではないという点を理解しておくべきでしょう。
ロボットに仕事を奪われるという思い込み
ロボットに仕事を奪われる、だから将来は不安だ、と結論付けるのは早計です。
ある種の職業ではロボットや自動化により置き換えることが可能です。
「消える職業」「なくなる仕事」となってしまうかもしれません。
たとえばウエイター・ウエイトレスの業務をコンピューターで自動化してしまったレストランも実際にあります。
自動運転技術が発展すれば運転手といった職業も、現在よりも需要が大きく減ってしまうかもしれません。
一方、新たな技術が発展すれば別の職業の需要が高まります。
実際、AIやビッグデータを活用する人材の不足は指摘されています。
日本が面している高齢社会問題に対しても、介護職の人手不足は深刻な問題となっています。
1900年には人口の40%が農業に従事していました。
現在では2%以下です。
かといって「トラクターができたせいで生産効率が改善し、我々は農業に従事できなくなった」と現在の社会の40%弱の人が深刻に悩んでいるでしょうか?
人々は、長期的には新たな社会・技術に適応してきました。
新たな技術が登場すれば新たな雇用の創出につながります。
フェイスブックなどIT企業そのものは雇用の創出に乏しいという指摘はありますが、広告関連事業など新たなビジネスモデルを創出しています。
プログラミング 教育は必要?
AIやロボットに仕事が奪われる、機械と人間の対決になるといった考えが一部に見られます。
ただ、実際にはAIやデータを活用できる人と、できない人の差が大きくなるでしょう。
小学校でもプログラミング教育が必修化しますが、実際に社会で能力を活用したいと思うのであれば単なるプログラミングだけでなく、情報やデータを生かす力も必要となってくるでしょう。
プログラミングで何ができるかを理解していることでできることも広がります。
ただ、誰もがプログラミングに習熟している必要はないでしょう。
英語などの語学と同じで「それを知っていれば可能性が広がる」けれど誰もが専門家レベルにまで達している必要はありません。
例えばグーグルの検索エンジンシステムも、「検索アルゴリズムによってインターネットで物を調べることができる」というアイデアによって生まれたものです。
それまでは何かを調べるためには図書館など書物から検索する、知っている人に教わるといった方法しかありませんでした。
今やグーグルの検索システムによって多くの人が恩恵を受け、新たな仕事の創出にもつながっています。
紙の本が売れなくなった、新聞や雑誌の発行部数も低下しているという声もありますが、インターネットに記事を書く、電子書籍を発行するといった新しい仕事の可能性が開けました。
決して自分でグーグルのアプリを作成できなくとも、新しい働き方を見つけていくことは可能です。
前述の論文をもとに「だから今からプログラミングの知識、スキルを身に付けておきましょう!」と書いてあるインターネット記事は、プログラミング業者のサイトだったり斡旋を行って仲介手数料を得る、もしくは広告収入が入る雑誌媒体のことがあります。
必要かどうかは時間や費用、必要性と併せて判断されることをおすすめします。
まとめ
AIと職業についての論文から将来の職業、プログラミングについてまとめました。
「私の職業が将来なくなるかも?!」と思うと、気になってしまうのも無理はありませんが、著者としてはそういう意図ではなかったということが読み取れます。
情報の解釈の仕方、そしてデータの活用力が今後ますます求められるでしょう。